「スパーダもこっちに来なよ!」
 そう言ってにこにこきらきらとした笑顔を浮かべながらこちらへ手招きする少女が足を振り上げるたびに水しぶきがあがった。それを見てスパーダは億劫そうに頬をぽりと掻きながら、あーはいはい後でなァ、と軽くあしらった。そしてごろりと寝転がったかと思うとくぁ、と欠伸をかみ殺しつつキャスケットで視界を覆う。そのままじわりじわりと迫る睡魔に身を任せようとした、その時だった。

 ──ぱしゃん、
「…っ、冷てェ…!」
 思わず跳ね起きたスパーダの目の前には少女の満面の笑み。びっくりしつつも、彼女から滴る水が気持ち良くて、ちょっとは相手してやろうかなんて思ってしまったことがスパーダは悔しくてしょうがなかった。



 今日も今日とてパーティのお馬鹿3人組ことルカとスパーダとイリアは仲良しだ。
 ルカは相変わらず弄られて半泣きになってるし、それをみて残りの二人は楽しげに笑ってる。今日は何をしたんだろうほっぺでも抓ったのかな、なんて思いながら私もその輪に加わりに走った。
 毎日やっててよくもまぁ飽きないもんだね、と呆れた笑みを浮かべながら。



 なぁ、何が駄目なわけ?
 俺がそう言うと目の前で縮こまっているこいつは面白いくらいにビクついた。伺うようにしておずおずと視線を向けている本人には分からないかもしれねーが、こっちからすると上目遣いで見つめられるのは……かなりそそる。俺は今すぐにでも押し倒したいのをぐっと堪え、ゆっくりともう一度同じ質問を繰り返した。何が、駄目なんだ。
 すると彼女はぶんぶんと横に激しく首を振ったかと思うとあーとかうぅとか小さく呻き始めた。しばらくその状態で居たかと思うとついに意を決したのか、ばっと勢い良く顔を上げ一言。

「…明日、じゃだめ?」
 ──駄目に決まってるだろこの鈍感バカ!
 俺はベッドの上で呆れを多量に含んだため息を吐き、思いっきり脱力した。



 ふと冷たい夜風を浴びたくなり、夜中に宿を抜け出した。星も月も明かりになるものは全て厚い雲に覆われているため、辺りは暗い。僅かな光を頼りにゆったり歩を進めると背後から声が掛かる。一瞬警戒するものの、よく聞けばそれは聞き覚えのある声だった。
「夜中の散歩だなんて乙なことをするね」
「…お前か…」
 俺が安堵の息を吐くと、木の陰に潜んだまま姿を現そうとしない彼女は何が面白いのかくすくすと笑う。そしてからかうような口調でそっと囁いた。それは夜の帳に静かに染み渡るようにして俺の耳に届く。
「信じることも信じ続けることも、まして信じ合うだなんて酷く難しい。……そう思わない?」
 刹那、心臓が凍ったかと思った。まるで片手で脊椎を鷲掴みにされた気分ですらあった。けれど彼女はそんな俺の心情を知ってか知らずか、そうそう今日は雲で見えないけど新月なんだよ、とまるで関係ないことをさも嬉しそうに付け足した。だが、俺には見える。
 今まさに、二つの月がきらきらと俺を射抜かんばかりに見つめていることを。



 街をぶらついていると見慣れた背中がふたつ。あら、と思いそれを見つめていると二つの影はじゃれ合いながら、さっき私が頼んだお使いをするためか、出店を冷やかしていたかと思うとふいと角へ消えて行く。
 そんな微笑ましい光景に思わず私は、
 ──あらあら仲良しさんね。
 なんて呟いて、一人こっそりと笑った。



 ばいばい、また明日!
 そう言って手を振る彼女の笑顔が好きだった。夕焼けに赤く照らされたそれは、普段よりもっと明るく綺麗に見えるから。
 でも、明日も続くと思った僕らの日常は大人によっていとも簡単に壊されてしまう。何時もの分かれ道で何時ものように別れようとした時彼女がおずおずと、あのねルカくん私ね引っ越すの…そう言って俯いたのだ。正直、彼女の堪えるような嗚咽は聞きたくなかった。夕焼けはただ僕たちの寂しさを引き立たせただけで、全然温かくなんてない。ただ、
 私、ルカくんと一緒に居て楽しかったよ。…私、わたし……。…うぅん、なんでもない。ねえ、ルカ君さようなら。ありがとう。
 そう言ったと同時に振り返らずに立ち去った彼女は美しかった。きらりと光る涙と、夕焼け。それとさよなら。



 冷たい冷たい回廊を足を忍ばせて進む。威圧感を放つ鉄扉が近づくうちに段々私は悲しくなってしまって内心涙を流した。ああ、なんてことをするのだろう!
 ぎり、と噛んだ唇から血が滲む。思わず私は目の前の鉄扉を睨んだ。ここに。ここにいらっしゃるのだ。そう思うと自然に震えてしまう手でそっとドアを二回ノックする。分厚い鉄くずに阻まれ、聞こえづらいことこの上なかったけれど確かにあの方の声がした。ああ──
「…失礼致します」
 そして顔を伏せながら入れば鈴のような声でありがとうだなんてもったいない言葉を頂いてしまった。興奮に頬を赤くする私を見てあの方──ヒンメル様は小さく笑って、別にそんな萎縮することはないよだなんておっしゃる。そして姿勢を崩しながら外はもう春なのかなぁなんて問うてくるので、私は素直にまだ花は咲き乱れていないこと、蝶が舞ってはいないことをお伝えした。
「ああ、それは残念だね」
 そう言ってお顔を伏せたので私は心配で恐怖で悲しみで胸が張り裂けそうになる。ああ、この方は、ヒンメル様は──冬を越せないのだ。元老院はいずれこの方を殺してしまう。ヒンメル様はもう庭に咲く花を見ることはないしそこを飛び回る蝶を捕まえることもないのだ。
 名もない神である私はそう悟った瞬間さめざめと涙を流して顔を覆った。



 その夢の中ではいつも僕は手を引かれていた。さらりとなびく髪と楽しげな声が印象的で、でも見るのはいつも後ろ姿だから顔は分からない。誰もから恐れ、畏れられていたアスラの手をそんな風に引けるなんていったい誰なのだろう。イナンナではないみたいだけど。
 僕は彼女のことが分からなくて、思い出したいのにその夢はいつも彼女が振り返る前に目が覚めてしまう。振り返ったとしてもある時は逆光で見えないし、またある時は辺りが暗いせいで見えなかった。浮かぶ感情は安堵と安心、それから愛情だ(もちろんそれは友人に対するものだけど、)。
 だから僕は寝起きの頭でただ想う。
 ──また、この夢を見たいな。
 そして出来ることなら振り返って顔を見せて下さい。



 スパーダってかっこいいよねー
 とふざけて言ったらすごい顔をされた。おおお前、何を言ってやがるんだ…!と慌てる彼に私は首を傾げる。
 いや、だって男前だしなんだかんだで面倒見はいいし。剣術だって大したもんだと思うよなんてぺらぺらと喋っていたら突然大きな手で口を覆われた。もが、と呻きながらスパーダを見れば耳まで赤くして俯いていた。
 …………なんでだ。仲間として褒めただけなのに。



 嫌なことがあって、今日は地面を見つめることが多かった。こう言うことにすぐ感づくアンジュにはすぐにバレてしまったけど、それでも他の人には気付かれていないはずだ。だってちゃんと笑ってたもの。
 なのに、
 なのになんで私は予期せぬ人に腕を引かれているんだろう。しかも夜中に。
 見えるのは黒く広く大きい背中だけだ。無言で引っ張られるので私は何がなんだか分からない。宿を抜け出し森へ入りそこを急ぎ足で抜けていく。はっはっと私の息が少し切れ始めた頃になると先導してきた背中がぴたりと止まった。着いたぞ、と小さく聞こえた声に私は思わず息を呑む。
 そこはやや開けた場所だった。空を遮る木なんて何もない。そして今日は新月。つまり、
「星、が」
 綺麗なのだ。街の明かりなんてないから6等星まで見えるんじゃあないかと疑うまでに空を覆い尽くす星たち。
 思わず彼を見るとぷいと顔を背けられた。お前が落ち込むとみんなの士気が下がるしセレーナも心配していたんだと早口に呟かれたけど、それより私はただ降り注がんばかりの光に圧倒されていた。



 尊敬友情厚情愛情憧憬懇願欲望もしくは狂気。さて、私が貴方に、貴方が私に抱くこの感情はなんでしょうかねなんて彼女が言った。
 それに対してオレは感情?そんなのより欲のほうが大切だポンと返してから、取り合えず殴ってそのまま抱きしめて首筋に噛み付いてやった。
 すると彼女はなるほど、欲望とは貴方らしい。なんて頬を歪めて笑うからオレはよりいっそう腕に力を込めるのだ。



 ルカー
 そう言ってぴたり。前に感じるのは温かい彼女の体温で、見えるのは小さな彼女のつむじ。わ、わわ…!と慌てる僕を余所にさらにぎゅうと抱きついたかと思うと彼女は小さな声でイリアが見たらどう思うかな、なんて囁く。え、と彼女を見れば浮かぶ笑みはまさに小悪魔のようで。
 僕が唖然としている間にすばやくぱっと離れ、何事もなかったかのようにして去っていた彼女の口笛と遠くから聞こえたイリアの慌てたような声にようやく自分がハメられたことに気付いた。



 雨がしとしとと降っていた。
 オレはしまった、傘忘れちまった…と店の軒下でそっとため息を吐く。雨は嫌いじゃねえが、これは少し困る。どうにも通り雨ではなさそうだし、はてどうしたものか。このまま秘密基地にまで走ってしまおうか。あのマンホールまでの距離を考えて、これくらいならそこまで酷く濡れることはないだろうと結論付ける。
──さて、行くか。
 そっとそう呟いてから駆け出そうと一歩足を踏み出──そうとして、オレは足をやっぱり止めた。見知ったヤツを見つけたからだ。どうやら向こうはこちらに気付いていないようだった。よく見ればアイツも傘を忘れたのか、白く大きな布を頭に被って走っている。阿呆かお前は。って言うかなんの布だそれ。なんてオレは思わず呆れる。
 でもそれよりも呆れたのは白い布を被って濡れた髪を頬に張り付かせたアイツがどうしようもなく綺麗で花嫁みたいに見えちまった自分だった。
 ……いくら六月だからって、これは寒すぎる。



「スパーダー」
「……ん、」
「大好き」
「あ、そ」
「スパーダ、」
「……」
「好き」
「……スパーダ・ベルフォルマ」
「…んだよ」
「嫌い」
「!」
君のことなんてもう知らない。そう言ってベッドから飛び降りればさっきまで真剣な面持ちで磨いていた双刀を放り出して慌てたようにスパーダが手を伸ばしてくるので私は彼の腕を逆に引っつかみ、げらげら笑いながら嘘に決まってるじゃないか、スパーダから嫌われても私からなんてありえないよ、と言って頬に唇を押し付けてやった。ああもう、これだから彼のことを放っておけないんだ。



「イリア!」
「げぇッ!……な、何よ?」
恐る恐るそう問えば、彼女は嫌ににこやかな笑みで(こう時が一番危ないのよね…!)、これ、なーんだと小さな皿をあたしに突き出す。どう見てもお皿。それ以外にはありえない。ちょっと見覚えがある気がするんだけど…気のせいかしらね。
「…お皿にしか見えないけど」
「そう、イリアが食べちゃった私のケーキが乗ってたやつ」
「!…あ、あたしじゃないわよ!ルカだってば、おたんこルカが食べたの!」
「…あれイリア、ほっぺにクリームが…」
「う、嘘だぁ!」
思わず頬に手をやった瞬間彼女がやっぱりねと言いながら、それでもにっこりと笑ったままこっちを見るもんだから私はハメられた!と思うと同時にこれからどうなるんだろう、と思いながら背筋に冷たいものが流れるのを感じた。
──ヤバイ、どう見てもあの笑みは、ヤバイ。



 王都から出たことがなかった私が体験したこと、出会った人々、新しい場所や国、そしてなにより一緒に居てくれた仲間に思いを馳せながら私は一日限りの日記をつける。今までの旅路に思いを馳せる。
 旅が終わっても、私は旅をしてる。



 ふんふんふーん。
 楽しげな後姿からは鼻歌が零れている。つい、と振る手はどうやら指揮をとっているらしく、4拍子のリズムを刻んでいた。上機嫌なのは分かるが、完全にオレの存在には気付いていない。
「…おい」
 ふんふんふんふん。
「おいってば」
 ふふーん、
「…おい!」
 なんとなく面白くなくて、少しムキになりながら声をかけてもヤツはまったく気付く気配がない。しょうがないのでつかつかと歩み寄ってその小さな肩に手をかける。ちょっと低くなった声で呼びかければびくん、と揺れた瞳がオレをようやく捉えた。
 彼女のきょとんと見開かれた目に満足したオレはへっ、と息を吐いてからさっきまで座っていたソファに戻った。



 パン屋で買い物をしている時だった。
 ふとショウウィンドウから道路を見ていると外からこちらを見ている女の子と目が合った。くりくりと大きな瞳と短い髪の毛が可愛らしい。身長は小さくて痩せっぽち、着てるものも上等とは言いがたい。いわゆるストリートチルドレン、って言うやつなのだろう。思わず眉を顰める。でもこれは不快に感じたからじゃあない。かといって彼女を哀れに思ったわけでもない。
 ただ、彼女の瞳が強くって眩しかったのだ。

「なんや、同情ならいらへんで?」
 慌ててパン屋を出てから私は不機嫌そうな声をあげる女の子の手にそっとポケットに忍び込ませていた飴玉を握らせて、無言で首を振った。そんなんじゃあ、ないんだ。



 あいつの声は離れていても分かりやすい。別にきんきんと響くような声でも特徴的な声でもないのにも関わらず、だ。
 なんでだろうとしばらく考えてその可能性に思い当たった時オレは無性に恥ずかしくなって帽子を深く被りなおす。
 ──お前の声だから、だなんてそんな。まさか。



 天空城であの石像を見てから僕はふとした時に、いつもじんわりと影から侵食されるような、地面がぬかるんで足元からずぶずぶと沈んでいくような感覚に囚われるような気持ちになる。
 手を伸ばしても届かないあの感覚、必死で掴んでも掴めないこの感覚といったら。
 いくら前世のことは関係ない今の仲間は僕を裏切りはしない、と自分に言い聞かせてもこびり付いた泥のように拭いきれない疑心。その気持ちを抱くたびに僕は罪悪感に押し潰されそうになった。
 ごめんね、と思わず小さく呻くような呟きを吐けば目の前に居る彼女が不思議そうに目を瞬かせるので僕はまた、



 ね、スパーダ知ってる?世界じゃあ一秒間に約2人死んでいるらしいんだよ。……え?んなこと興味ないって?んー、そう言われちゃお終いなんだけどなぁ。
 でもすっごく不思議じゃない。私が一呼吸しただけで二人も死んじゃうんだよ。なんだか変な話だね。いっそ呼吸止めたらどうかな。うん?そしたら私が死んじゃうって?あはは、確かにそうだ、呼吸を忘れて死んじゃっただなんて中々ないよねえ。

 そんなことをなんでもないことのように言うこいつの体躯を思わず俺は抱きかかえた。そんな、そんなこと言うんじゃねェ。搾り出すような俺の声に、こいつはやけに楽しげな声で“じゃあこっちは知ってる?一秒にね、約4人の人が生まれてるんだよ”と、笑った。



 戦闘の時、彼女はいつも僕の欲しいタイミングでグミをくれるし、危なくなったらすぐに強力な天術を使うから僕は敵から十分に距離を取ってから改めて反撃することが出来る。痛みに顔を顰めた次の瞬間にはファーストエイドが詠唱されていて、僕の傷はすっかり塞がれてしまう。
 ある時ふと僕が彼女に“どうしてそんなに僕の欲しい時に欲しいものが分かるの?”と聞くと彼女は意味ありげな笑みを浮かべながらウィンクを返してきたから、僕はああ、理屈じゃなくてそう言うものなんだなぁ、と妙に納得したのだ。



「…ん、」
 思わず自分の口から鼻に抜けるような声が出た。寝るつもりはなかったのに、少し意識が飛んでたみたいだ。しばしばする目を擦り、ずれて居るであろう帽子を直そうと頭に手を伸ばして俺は気付いた。
 ──帽子がない。
 何時も定位置にある相棒がないことに俺は混乱する。何時もあるはずのものがないのは少し、変な感じだ。寝ぼけていた頭が回転し始める音を聞きながら、もしや寝相が悪くて落としたのかと辺りを見渡す。
「……」
 そして閉口した。
 俺の真正面にはびっくりするくらい近い距離に、突っ伏したアイツが居た。一瞬具合が悪いのかと心配したが、単に寝ているだけらしくすうすうと幸せそうな寝息を立てているのが聞こえた。それを見て思わずにやけそうになったの口元が次の瞬間、引き吊った。

 アイツの頭に見慣れた帽子が乗っている。いや紛うことなくあれは俺の帽子だ。

「……こんにゃろ、」
「…んあ、…!ッ痛たたたた…!」
  それを見ていたら無性にイラついたので、ヤツの鼻を思いっきり摘んでやった。何が起きたか分からずにあたふたとする姿を見て、俺は少し気分が良くなった。



「もしも、なんだけどね」
「?」
「もしも、この旅の途中で私が倒れてしまったらどうなるんだろうなあって」
「……どーゆうことなん?」
「えっと、ほら、今世界の命運?なんか良く分からないけど。そんな感じのものを握っているわけじゃない?今更振り返るわけにも立ち止まるわけにもましてや、戻るわけにもいかないわけじゃない」
「だから、どうなるんやろってことかあ」
「そう、」
「んー、せやねえ、取り合えず、ウチが背負って走ったるわ。安心せえ、ウチの背中は広いで?安心して任せてくれてかまへんよ」
「…………えへへ、ありがと」
「へへ、おおきに〜」



 僕は困ってる。現在進行形で、すごーく。
 だって、
「う、ぇえ……ん、ひ、……ッ、く……ずずっ、うぅ、あ…うわぁぁん!」
 拭おうともしないから、ぼたぼたと彼女の大きな瞳から透明な雫が零れ落ちる。なんで泣いてるんだろう。さっきまでニコニコと笑いながらスパーダたちと話してたのに、ちょっと輪を離れて僕のところに来たかと思った矢先にこれなのだから。あわあわと慌てて彼女の周りをぐるぐる回るけど、これといった解決に繋がるわけもない。伸ばしたり引っ込めたりしている手は結局彼女の頬を拭うことすら出来ずに終わってしまった。
 どうしよう、どうしよう。
 ほんとう、さっきからこの言葉ばかりが頭を流れる。
「る、るかくん、」
 ふと気付いたら驚いた表情の彼女が目の前に立っていた。頬はまだ濡れているけど、涙はもう止まっているようだった。よか、った。良かった。

「ねえ、泣かないで。ごめ、ごめんなさい、私の所為だね、ごめんね……」
「え、」
 そう言われて初めて僕は僕が泣いていることに気が付いた。頬が、温かい。なんでだろうって考えるまでもなく、それは彼女の手がそっと僕の頬を包んでくれたからだ。


026.現実虚無
027.不動
028.嫌いだよ。
029.あのときああしていたならば。
030.諦めないで
031.鳥籠の中に
032.煙草
033.Don't speak!!
035.失敗
036.見かけたあのこ
037.恋愛方程式
038.テストの前に
039.馬鹿野郎。
040.ねんどみたい。
041.真偽の程は?
042.CD/MD?
043.青の薔薇
044.明日はどうだろ。
045.転んだ
046.見つけた。
047.かごめかごめ
048.ソファ
049.映画に行きました。
050.半分こ。