嫌なことがあって、今日は地面を見つめることが多かった。こう言うことにすぐ感づくアンジュにはすぐにバレてしまったけど、それでも他の人には気付かれていないはずだ。だってちゃんと笑ってたもの。
なのに、
なのになんで私は予期せぬ人に腕を引かれているんだろう。しかも夜中に。
見えるのは黒く広く大きい背中だけだ。無言で引っ張られるので私は何がなんだか分からない。宿を抜け出し森へ入りそこを急ぎ足で抜けていく。はっはっと私の息が少し切れ始めた頃になると先導してきた背中がぴたりと止まった。着いたぞ、と小さく聞こえた声に私は思わず息を呑む。
そこはやや開けた場所だった。空を遮る木なんて何もない。そして今日は新月。つまり、
「星、が」
綺麗なのだ。街の明かりなんてないから6等星まで見えるんじゃあないかと疑うまでに空を覆い尽くす星たち。
思わず彼を見るとぷいと顔を背けられた。お前が落ち込むとみんなの士気が下がるしセレーナも心配していたんだと早口に呟かれたけど、それより私はただ降り注がんばかりの光に圧倒されていた。