ッ!」
 ちくちくと、もう身体を拭くには使えなくなった手ぬぐいを雑巾にしようと縫っている時だった。幼なじみの大声が聞こえた次の瞬間、すぱぁんッと勢い良く襖が開け放たれた。
 は小さな悲鳴と共に肩をびくりと竦ませ、背後を伺うと案の定、幸村がぜえはあと肩を上下させながらこちらをじっと見ていた。一緒に縫い物をしていた女中仲間が何事だと驚き、そしてつと頭を下げた。彼女も一拍遅れてそれに倣う。
「幸村様、がどうかなさいましたか。もしや何か粗相でも……」
「い、いや、そうではない、その、」
 を少しの間借りても良いか。
 今更ながら仕事中のところに勢い良く乗り込んでしまったことを恥じているのだろう、頬を少し染めながら呟いた言葉に、女中達の中から是以外の言葉が出るはずがなかった。



「……なんですか、急に。どうかしましたか」
 急にやって来たことに驚いたのもそうだが、何より部屋から出て行く時に背後から注がれた好奇の視線が恥ずかしくて、はつい少しだけ不満を滲ませた声をあげてしまった。それに気付いた幸村は途端、酷く申し訳なさそうな顔になった。
「す、すまぬ…」
「……いえ、別に怒ってはいませんから」
「その態度は怒っているだろう?」
「怒っていません」
「怒っている」
「本人が怒ってはいないと言っているのですから、信じて下さい」
 少しだけ目を伏せながらそう言うと、幸村は渋々ながら納得したようだった。
「それより。本当に急にどうしたのですか」
「い、いや、実はその、大したことではないのだが、」
「……」
「……昨日、佐助に髪を切ってもらったそうだな」
「ええ、まあそうですけれど」
 それがどうしたと言うのだろうか。は小さく頭を傾いだ。じいと幸村を見つめて次の言葉を促せど、目の前の彼はどうも要領を得ない言葉を発したまま、すっかり固まってしまっていた。
「……幸くん?」
「…いや、やはり何でもないのだ」
「別に何を言われても怒りはしませんよ」
「でも呆れるやもしれん」
 そう言ってすっかり顔を伏せてしまった幸村には困ってしまった。一体この幼馴染はどうしてしまったというのだろう。なんとなく居心地の悪さを感じて、彼女はそっと小さく息を吐く。
「幸くん、私は怒りもしませんし、呆れもしません」
「しかし、」
「何年の付き合いだとお思いですか」
 そう言いながら小さく笑うと、幸村もすっかり観念したのか、釣られて笑みを浮かべた。
「ほ、本当に呆れるでないぞ」
 そう言って耳元でそっと囁かれた幸村の言葉には一瞬ぽかんと惚けた顔をしたかと思うと、次の瞬間、くすくすと酷く楽しげに笑い出した。
「ふ、ふふ、じゃあすぐに鋏と懐紙を持ってきますから、先に部屋に行っていて下さいね、」
 ぱたぱたと足取り軽く、髪を切る準備をしに行ったを見送りながら、幸村は今更ながらも自分の発言が破廉恥であったことに顔を染めた。



「俺も髪を切ってほしいんだが、」