それは鉄のカーテンよりも厚い壁で、


 いつからだっただろうか。
 あだ名で呼んでいたのが、名字で呼ぶようにになったこと。
 いつからか覚えていない。
 慣れ慣れしく接していたのが、急に余所余所しくなった。

......

 暗くはない。明るくもない。そんな放課後のしぃんと誰も居ない廊下に一人突っ立ってるのはなんだか寂しいし地味に怖いようなそれでいて不思議な感覚に襲われるので、少し早足になって下足室へ向かう。鏡の前とならば尚更急ぎ足になる。私はなかなか見つからなかった先生を恨みつつ(日誌を渡すだけだったのにこんなに時間が掛かるだなんて!)、駆け下りていく階段の途中で、

「お、じゃん」
「か、叶、くん…」

 クラスメイトに出くわした。手にぶら提げられた美術用具(確か明後日までの宿題があった、)を見るからに多分忘れ物を取りに来たその帰りなのだと思う。多分。
「よう、」
「…う、うん」
 ──早く、帰りたい。早く、この場を離れたい。
 そう思ったのが顔に出てしまったのだろうか、叶くんは少しだけ眉根を寄せてなんだよそれ、と呟いた。それを聞いて私の眉がハの字になったのが自分でも分かった。
「…そういやさ、最近全然話してないよな。……いやむしろ高校入ってから話してないよ、な?」
「そ、うかな…」
「そうだよ。なぁお前俺と目も会わせないのって、」
 三橋居なくなったからなの?
 区切られた言葉の続きは猫みたいにきらきらとした、どこまでも吸い込まれそうな黒い瞳が物語っていた。そう、じゃない、でも、そうでも、ある。その目を見ていると無性に息苦しくなって私は思わず目線を逸らす。でも逸らした途端にぐいと腕を掴まれて半ば無理矢理にしゅ…叶くんの方へ向かされる。
「う、あ」
「なぁなんで?、俺なんかした?」
「して、ない…してないよ…」
 私はかぶりを振るだけだった。違う、違うんだよ修ちゃん。でもね、



(昔には戻れないんだよ、)
(昔みたいに仲良く遊ぶには大きくなりすぎたんだよ私たち)