本を読むのは好きだ。
動かなくても世界を飛び回れるし、自分の知りえなかったことがいとも容易く手に入るし、本の中でだったら運動の苦手な私も英雄になれる。ファンタジーも好きだしミステリーも良い。ラブロマンスは苦手だけど、コメディは好き。経済学やらなんやらの本は読んでも良く分からないけど、世界史とかは面白いと思う。ただ、この趣味はいささか根暗に思われてしまうのが欠点である。別に本好きイコール根暗と言う図式は成り立たないと思うんだけど、これはまぁしょうがないことだと割り切ることにしている。
そんなわけで今日も今日とて私が公園のベンチで本を読んでいると、ベンチがぎしりと鳴って、誰かが私の隣に座ったのが分かった。
「お前、本当本好きだなー。オレにゃ考えられねェや。字ィ見ただけで頭痛くなるもん」
「ん、」
「……おい、聞いてんのか」
「んー……」
「おーい、?」
「……ん、」
「……おいてめェ、人が話しかけてんだからそん時くれーは本読むの止めろよな」
ちょっとムッとしたような声がしたかと思うと私の両手から本がするりと抜き取られた。ああ、イワン!彼がロゼッタにビンタされて目を覚まそうとしているところなのに!つまりすごくいいところなのに!
「!ちょ、スパーダ何するの」
「何すんのって……本取っただけだろーが」
「ひどい、イワンが!私のイワンがー……!」
「……なァにが、私のイワンだと?」
私のイワン発言がどうも気に入らなかった様子のスパーダは不機嫌そうに立ち上がるとちぃと舌打ち。でも私はそんな怒らせるようなことを言った覚えがないので、ただぼんやりと幼馴染と言うか、単なる腐れ縁の友人を見つめるだけだった。
「……あーもう、何でそんな怒るかなぁ。拗ねちゃったの?それならごめん、話が面白かったからつい」
「す、拗ねてねェし!」
「ドモってるけど?」
「うっせーな、殴るぞお前!」
「そんなことで女を殴るようじゃ誇り高き騎士道とやらが泣くよ」
そう言うとぐぅと何か詰まったかのように黙りこくるから、私はくすりと笑った。それを見てスパーダがまた怒って唾を飛ばすもんだから、今度は私が眉をしかめる。私が頬にかかった唾液を拭ってスパーダの手を取って、おもむろに歩き出すと慌てたように彼が手を振り払おうとするのでもう一度ぎゅうと強く握りなおしてから公園を後にした。
じゃあ、あそこの喫茶店でも行こうか可愛く拗ねる、君の奢りで。
腐れても縁
(ちょ、何でオレが奢んなきゃなんねーんだよ!)(お金持ってくるの、忘れちゃった)(……ちィ!)