その日くんは昼休みに来たのだけど、よく見なくても分かるくらいに傷だらけで腕や顔に絆創膏やガーゼがたくさん張られていた。びっくりして思わずまじまじと見つめていると、その視線に気付いたのかくんがこっちを見た。
「…なんだよ」
「……その怪我、どうしたの?」
 何でもない。そう言おうと思ってたのに実際に口から零れた言葉はまったく反対の言葉だった。反射的に自分の口をはっと塞ぐと、彼は無表情で、別にそんくれーで女は殴んねぇよと呟いた。それを聞いて私は随分と失礼なことを言ってしまったんだと泣きそうになった。ごめんなさいと謝るとくんは形の良い眉を少しだけ歪めてから、
「別に、」
 とだけ言った。その目はもう私とは関係のないところを向いていて、頬杖をついていた。明らかに関わって欲しくないと言う意思表示だと思うのだけど、その腕から見える絆創膏はやっぱり痛々しくて、私はもう一度だけくんにそれ、どうしたの?と聞いてみる。もちろん無視されるかと思ったけれど、そんなことは無くて、くんはちゃんとこっちを見て一言。
「ケンカしたんだよ」
 ったくあいつら一人じゃ勝てねーからって沢山呼びやがって…とかぶつぶつ呟いてから、まぁ半井には関係ねぇから安心しろと言ってまた空を見上げた。ひらりと振られた手は向こうに行くことを促していた。



怪我
(つられて見上げた空は高く青く──)