今日もウシロくんはカナちゃんを殴る。それを止めに入る私も殴られる。たまに鼻血が出てしまったりするのだけどどうやら今日は平気なようだ。ただ殴られた頬がじんじんと痛い。多分、赤くなってるんだろうな。明日は学校があるのに。
──でも、
「……っ」
人のことを殴ってくれた癖に、ウシロくんは眉を痛そうに、悲しそうにしかめるもんだから私は何も言えなくなる。そんな顔をするくらいなら最初から誰も殴らなきゃいいのに。そう思うのだけど、なんとなくウシロくんの痛みが分かってしまうだけに尚更何も言えない。じんじん。ずきずき。頬の痛みに私も顔をしかめた。それを見てさらにウシロくんの顔が歪んでしまったので、今度は安心させようとちいさく笑みを浮かべて見せた。
「……何、笑ってんだよ……!」
そう言われたかと思うと今度はさっきと反対の頬に衝撃が走る。痛い。おかしいな、笑ってみただけなのに、な。ずきずき。じんじん。痛みの向こう側でそっと今私の顔はどうなってるんだろうかなんて考えてみるのだけどあいにく鏡も何もないのでよく、分からない。まぁ、実のところそこまで力の強くないウシロくんのことだから漫画みたいにはなってない、はずなのだけど。
「へらへらとお前は気持ち悪いんだよ……っ」
ばしん。
「なんでおまえは!」
ばしん。
「抵抗もしないで……!」
ばしん。
ばしん、ばしん。
一発一発が、重い。襟を掴まれているから私は倒れこむことも出来ずにただ、首が左右に振られるだけだ。ぐわん、と視界がブレる。歪んだ世界を見つめていると段々吐き気すら覚えた。ウシロくん。そう小さく呟くと彼の肩がぴくんと揺れる。「……なんだよ」ううん、何も。
そう言った途端キッと私は睨み付けられ、もはや麻痺し始めた頬にまたもや衝撃が加わる。パンッ。ぽぉと意識が飛びそうになるたび、ウシロくんの掌が私の目を覚ます。い、たい。でも、殴ったウシロくんも同じだけ痛いんだ。理科の授業で先生が言ってた。そう思うと今目の前に居る少年がどうしようもなくいとおしく思えてきて、麻痺してどこかぎこちない動きをする自分の身体に鞭打ちながら、ぎゅう、と彼を、ウシロくんを抱きしめる。そして彼の血が滲むほどキツく握り締められた拳が私の大丈夫だからの一言と共に弛緩したのを確認してから私は自分の意識を手放した。
ネガティブ・スパイラル
(そして今日も私たちは悪循環を繰り返す)