「そろそろ眠った方がいいよ」
 私がそう言うとスパーダは見ていて思わず笑ってしまうくらい面白い顔になった。つまり変な顔になった。
「……はあ?何言ってンだお前。今日の見張りはオレたちじゃねーか」
 そう、今夜パーティの安眠をモンスターから守るべく、寝ずの番(と言っても二人で交代で寝たりするから不眠不休ではないのだけど)をするのは私とスパーダだ。ちなみに明日はルカとイリアで、これはもちろん仕組んでる。だって面白いからね。でもこの二人はたまに口論するから(いやむしろイリアが一方的にまくし立てる感じ)、モンスター以上に安眠妨害と化すのも……まあ、多々ある。いや多々だよ多々。別に二人が当番になるたびなわけ……、
「……おーい、現実逃避してねェで帰ってこいや」
「っう、わ……ご、ごめん」
 目の前で振られる手のひらにぱちん、と目を瞬かせればスパーダがじぃと私を見ていた。びっくりして後ずさりしようにも後ろは木が邪魔をする。しょうがないのでちょ、近い近いと手を突っ張ると今度は彼が目をぱちりと瞬かせた。
「お、悪ィ」
 そう言って一歩引かれた身体が私の前で胡座をかいた。そのまま頬杖をつきながら、
「……んで?なんでまたそんな変なこと言い出したんだ?」
「またって。その上変って。失礼だなー」
「いや毎度のことだろ」
「そう?」
 そんな変なことを言った覚えは全然ないのだけど。いや、もしかして気付いてないだけで言ってたのだろうかなんて頭を捻っていると何故かけらけらと楽しそうに笑われた。思わずむくれた私がスパーダを睨みつけるとんなに怒るなよとまた笑われる。……もしや笑い茸でも食べたんじゃないのか。そこまで笑われる謂れはないのに……!
「あーもう、悪かったからそんな睨むな眉間に皺を寄せるな!」
「……どっちも一緒」
「うっせー」
 そこまで言って私ははふぅと息を付く。ま、いいや。なんかどうでも良くなってきた。
「……心配しただけなんだけどな」
「はあ?なんでだよ」
「だっていっつも前線で頑張ってるからきっと疲れてるんじゃないかなって」
「ハッ、そんなことかよ。別に大したことじゃねェし」
「…………」
「……いやだから睨むなって」
「…………」
「……?」
「……スパーダのばか、きらい」
 私は暴言を呟いてからふいと俯く。今はちゃんとスパーダの顔を見れない。きっと酷い顔になってる。
「……あー……、」
 ぎゅうと握り締めた私の拳に温かくって大きな手のひらが重なる。私の手のひらをこじ開けようと滑り込む手のひら。びっくりして見上げようとしたら反対の手でぐいと押さえつけられた。顔が、上げられない。今、どんな顔をしてるの?
「……わり、お前なりに心配してくれてたんだよな」
「……うん」
「でもよ、オレは別に平気だし、その、なんつうか、その気持ちだけで嬉しいっつーか……って、だぁあ!おっまえなァ、こんな恥ずかしいこと言わせんなよ……っ」
「……うん」
「あ、今笑っただろお前!」
「笑ってないよ」
 そう言って顔を上げようとするとまたもやがし、と大きな手で押さえつけられる。むぐ、と抵抗しようとすると肩にこてんと何かが乗った。さらさらの髪の毛が顔にかかってちょっとくすぐったい。な、何?と問うと、別にと素っ気無く返される。なんとなくそれが可笑しくて、でも指摘したらきっと怒られちゃうなぁと思った私は笑う代わりに行き場の失った左手でその頭を抱き寄せてみた。



おやすみなさい。