「ルークさま、」
そう呼びかけても温い毛布に包まった身体は僅かに身じろぐだけで、その瞳が開くことはなかった。もう外は太陽は高いところを通っているような時間だ。流石に起きて頂かなくては。いささか心は痛むが、それを堪えて私はそっと寝息の聞こえるベッドに近づき背中を軽く叩く。
「ルークさま、もうお昼ですよ」
「……んぁ……」
「ルークさま?」
「………………、うっせー、よ……」
眠気の滲んだ声で彼はそう言ったかと思うと今度は毛布を頭まで被り、まるで胎内の丸まる子どものような格好で惰眠を貪らんとする。少し慌てながら毛布の端を引っ張る私の手を彼は酷く煩わしそうに振り払った。
「……、おれは、ねみぃ、んだ……」
「そうは言われましても……」
「うっぜーな……クビにすんぞ……」
何時もの文句だ。
私は思わず眉を顰める。さて、どうしたものか。どうしたらこの大きな子どもは目を覚ましてくれるのだろう。頬に手を這わせ、ふぅむと小さく唸る。もう一度見遣ればルークさまはただ幸せそうにすうすうと寝息を立て始めている。なんとなく、起こすのが憚られるように思えた。でも、メイド長から承ったルークさまを起こすと言う指令はどうしようか。それにコックから今日のは自信作だからぜひ食べて頂きたいんだ、と用意された食事はどうしようか。
「ルーク、さま……」
結局どうしたら良いのか、打開策の見つけられなかった自分の口から出た声はなんとも情けないものだった。伸ばそうとした手が所在なく揺れる。ここで無理に起こそうとしたらきっと怒鳴られてしまうだろう。かと言って放っておくわけにはいかない。悶々とジレンマを抱えていると、
「…………おい、」
「……っ、ど、どうかなさいましたか」
「……んでもねーよ」
「はぁ、」
突然ぱちん、とルークさまの目が開いたかと思うとじぃとこちらを見られた。かと思えばその視線は次の瞬間には窓の外に向いていたりと忙しない。どうしたのだろう。思わずまじまじとルークさまのことを見つめるとジト目でんだよ?何か付いてんのかと呟かれる。反射的にすみません、と頭を下げれば酷く傷ついたような、置いていかれた子どものような感情がさっと顔に表れたかとそのまま顔を逸らされた。その表情を見ると私の胸もつきん、と痛む気がした。
だから、
だから思わず、
(──私の手が私のものじゃあないみたいに、)
「もう絶対こんなことしませんから、今だけですから、だからお願いそのまま、」
「!、おまえ、っ…」
びくん、と私の腕に閉じ込められてしまったルークさまの肩が揺れる。それをも押さえるように私はさらに力を込めた。大丈夫、大丈夫だから、と語りかけるように囁けば状況について行けなくなった所為かどうか良くは分からないけれど、くてとルークさまの力が身体から抜けた。
私はひだまりの匂いのする赤毛に顔をうずめて、大丈夫だから、ともう一度だけ繰り返す。
大丈夫、君は強い