リオンー!
 そう言って大声を上げながらぶんぶんと手を振れば至極迷惑そうな顔で振り向かれた。うるさい、と言う心の声が聞こえそうだ。実際小さく彼の口がその形を作ったのが見えた。
「……なんだ、騒々しいヤツだな」
「酷い、折角プレゼント持ってきたのに」
「お前のプレゼントなんて、どうせロクなものじゃあないだろう」
「……普通そう言うこと言う?」
 はぁ、と大げさに肩を落としてみてもリオンは冷ややかな視線を送るだけだ。しょうがない、こうなったら最終手段だ。むしろ最終目的だ。
「……ま、いいやこれあげるよ」
 そう言って彼の頭にそっと背中に隠していたそれを乗せる。びっくりしたようなリオンの顔に思わず笑みを漏らしながらどうかな、なんて問う。笑われたことに腹を立てたのか、真っ赤な顔で頭に手をやるリオンが面白くってさらにくすくすと笑っていると頭を小突かれた。ちょ、手加減くらいしてよ……地味に痛い……。
「……おい、」
 じんと痛む頭をさすっていると自分の頭に何が乗せられたのか理解してしまったらしいリオンがわなわなと身体を震わせていた。え、だめ?と言った瞬間リオンの口は何か言おうと形作ったけれど、そのままはぁ、とため息と共に脱力する。
「……バカか。どこに男の頭に花冠の乗せるヤツが居るんだ……」
 あえて言うなら君の目の前に一人は確実に居るよ、と言いたいのをぐっと堪えて、そうだねーと同意しておく。でもそれはそれで不満らしいリオンはぽそりと取り合えず僕の目の前にバカが一人居るな、なんて呟いた。ありゃ奇遇だね、同じことを考えてるなんて。そんな些細なことが嬉しくてくすくすと笑っているとリオンに苦虫を噛み潰したような顔でバカ、ともう一度言われた。何もそんな言わなくてもいいのになぁ。
「でもそれ、綺麗でしょ。ちょっと遠くに行くとね丘があるじゃない。そこにいっぱいシロツメクサが生えててさ。あんまり綺麗だから摘んで来ちゃった」
 ね、と同意を求めるように言うとリオンは何がね、だ阿呆め、なんてぷいと顔を背けたまま言う。でも知ってるかい、君からは分からなくても君の耳が真っ赤になってるんだなぁ。
「リオン、今度一緒にシロツメクサでも摘みに行こう、」
 ──そうそう、ついでにもう一つ。
 シロツメクサの花言葉ってね約束、なんだよ。ね、だから今度絶対一緒に行こうね。



花冠をあげるよ
(まだ律儀に頭に花の冠を乗せてる君がいとおしい、)