カンジ!と大声で呼ばれた。俺はまたかよ……と思わず呆れる。振り返るとあいつがバッグと共に腕をぶんぶんと振り回していた。ちょ、周りがすごい目で見てるって気付け!頼むから!
「なんだよー!1秒じゃそっち行けねえぞぉお!」
「んなこと知るかぁあ!さっさとこっち来なさい!!2秒で!」
「一秒しか変わってねえぞ!?」
「早くしないと先に帰るんだからねー!!」
「ちょ、」
そう言う間にもどうもせっかちな彼女はくるりと身を翻して、すたすたと本当に校門を抜ける。手を伸ばしても届くわけがなくて。俺は慌てて靴を下駄箱に押し込み駆け出した。後ろからからかう様な声が飛んだが全部無視してやった。かわりに笑みと共に手を振ってやるとうぜええと野次が飛ぶ。今度こそちゃんと無視をしてあいつの家路を辿る。小さい背中はすぐ見えた。
「……お、お前なぁ……」
「遅い。16秒の遅刻!」
「これでも急いだよバーカ」
そう言って頭を撫でた瞬間、目の前の顔が面白いくらい真っ赤になったから、俺はもうなんか走って荒くなった息とか乱れた服とかなんて全部どうでもよくなった。
(触れた手は温かい)