目の前をすたすた歩く背中。私と同い年なのに、凛と薫るのは大人のそれだった。追い付かない距離にもどかしくなった私はチズちゃん、と小さく呼びかける。その声が届いたのか、目の前の背中がぴたりと止まり、緩やかに振り返った。
「…何?」
「待って、」
そう言うとチズちゃんは僅かに眉を顰め、怪訝そうな顔をした。何故?そんな色がチズちゃんの顔に表れる。だってお互いのいる距離は手を伸ばせば僅かに届くか届かないかなんて言う微妙な遠さなのだ。──でも、私は、こんなに酷く遠く、すぐに見失ってしまうように感じてしまった。だから思わず引きとめようと声を上げた。私はおかしいのだろうか。
その問いの答えはチズちゃんの手に握られたきらめくナイフだけが知っているように思えた。
(見知らぬ背中)