くんは怖い。
 目つきは鋭くて表情も無表情か誰かを怒ったように睨み付けているかのどっちか。その上態度もお世辞にも良いとは言い難くて、授業は大概サボってる。この前は珍しく居るかと思えば机に突っ伏して寝ていた。先生もくんを起こすのはちょっぴり怖いらしく、寝ているのを見ても咎めずにそっと放って置いていた。そんな彼の様子に私は注意したいのだけど、話しかけようとするたびにするりと避けるようにどこかに行ってしまうから同じクラスになってはや1ヶ月、未だに話したことはない。それに正直言えば少しだけ、私も怖かった。
 だから、この前くんがいきなり話しかけてきたのには驚いた。まさか向こうから話しかけてくるとは思ってなかったし、それと同時に何か気に障ることをしてしまったのかと不安になった。色々と思い当たるのがあるだけに尚更。私のこの性格が嫌いな人は沢山居る、から。
 それなのに彼が語ったのは言葉こそ少なくても、確かに私を気遣うようなそんな類もの、それだけだ。
 いつも通りの無表情で淡々と語られる言葉は不思議と暖かく感じた。怖い、人…のはずなのに。怖い人、だと思ってたのに。
 言いたいことを言い終えたのか、そのままふいと教室から出ていこうとするくんを私は引き留めたくて、思わずまた優等生ぶった台詞を吐いてしまったのだけど、くんはそんな私の考えなんて全部お見通しとでも言いたそうに「んなの──俺の勝手だろ?」そう、にやりと悪戯めいた笑みを浮かべてまたどこかに行ってしまった。ぴしゃんと閉じた扉を見つめて私は惚けるだけだった。
 私、彼のことを勘違いしていたようだ。



くんは不思議な人