ぱちぱち。
 しゅわわ。
 きらきら。

 そんな効果音がぴったりな花火というやつはあまりに儚く、故に強烈だ。己が最期を他人の脳髄に刻み付けてやろうとばかりにそれぞれの光をめいめいが精一杯に輝かせる。それは光の洪水であり火花の断末魔のようなものだ。溢れんばかりの光はあまりにも美しく、恐ろしい。まさに日本の文化の集大成、とは言い過ぎかもしれないが、それに近いものだと私は思う。……まぁ、今やっている花火は中国産だけれども。だって、国産のは高いんだし。でも、私達にはこのくらいので十分すぎると思う。はしゃげればそれで幸せ、それで満足なのだから。
「うっひょー!超きれーっ!ほれ、見てみろよ!」
「ちょ、おま、先をこっちに向けんな!危ないだろ!」
 とか。
「…はぁ…なんで俺まで…」
 とか言いつつちゃっかり自分の分はキープしていたりとけらけらと楽しそうに笑いながら、きらきらしゅわわと光を撒き散らしていく野球部員達。人数が居るだけに見ているだけでもとても賑やかで、色鮮やかだ。火花に照らされるみんなの顔は生き生きとしていて、まさに青春。溺れてしまいそうだ。人と言う波に酔ってしまいそうだ。なんてそんなことを考えつつ、自分を落ち着けるためにほうと息を吐くと、私はふいにぽつんと置いてけぼりを食らったような気分になった。自分は居るのだけど、やっぱり居ないような。なんだか実感が、湧かない。

 ぱちぱち。
 しゅわわ。
 きらきら。

 光が、音が、遠い。
 近いはずなのにそれはあまりにも遠かった。映画でも見ているような気分だ。まるで目の前の光景がスクリーンに映された実体のない、ただの虚像のように思えた。役者と観客、そこには大きな隔たりがあるのだ。なんて遠いのだろう。なんてなんて──
、さん!」
「!」
 ──その途端、一気に現実に引き戻されたような気がした。
 光が、音が、近くなっていく。スクリーンは取り払われ虚像は消え去り、残るのは実体と私。ばっくんばっくんと心臓が、うるさい。知らずに冷や汗が背中を流れていた。
「ど どうした、の」
「…あ、あ…うん。なんでもない。ごめん、ぼーっとしてて……あれ、」
 私はそこで自分の頬に生ぬるいものが伝っていることに気付く。一瞬なんなのだろうと思って、拭った手についたしずくをそっと嘗めるとしょっぱかった。…………涙?
 なんで涙が?と思って三橋くんを見ると、すごく慌てていた。
「あ、あ あぁ…、さ、…泣い ど、どうし…お、オレの せ、所為…!」
 いやいや、違うから。別に。関係ないのだけど。でもさんはとっても打算的だと自負しているので、この機会を逃すのはもったいないなと思ったので、
「……そうだよ、全部君の所為だ」
 思っても居ないウソを撒き散らしながら、思いっきり抱きついてやった。う、わ…!、さ…!と慌てる三橋くんを無視してさらにぎゅうとしがみ付く。
 その時、ひゅうううと音を立てて空へと昇っていった火薬が破裂して光の花を散らせた。私はちょっと出来すぎだと思って笑う。三橋くんも釣られて笑う。嗚呼、もしかしてこれも青春なのかななんて阿呆なことを考えながら、私は光花にときめくのだ。