「あっ、今はだめ、絶対だめ、」
 そんな台詞と共には思いっきり腕を突っぱねてきた。でも、オレは今、彼女を部屋に連れ込んでちゅーしてやろうと思っていたわけで。そのためにがっちりと腰を押さえ込み、後頭部に手までそえていたわけで。つまり、彼女の可愛い抵抗はあくまで徒労に終わった。
 イイトコでお預けを食らったオレは、不満を示すためにその顔を覗き込んでやる。
「ア?なんでだよ?」
「っ、い、痛いから!だからだめ!」
「だーかーら、どこがだよ……」
 の言動はいつも、どこかズレてる。少し呆れつつも、それをきちんと指摘してやった。
「口の中。さっきうどん食べたら火傷しちゃって、」
 そう言う間も、やっぱ気になるのか、何度か舌で確かめては無言で悶えていた。どうやら、中々に重傷らしい。
「なに、そんなヤベーの?」
「皮と言う皮がベロベロしてるくらいには」
「……うっわ、そりゃ痛ェわな……」
 想像するのも嫌だわ、正直。御愁傷様と言う他ない。
 が。
 そこでオレは気付いてしまったのだった。痛みがぶり返した所為か、少し涙目になっているの姿に。そしてこの体勢であるが故に、彼女は先ほどからオレのことを見上げているという事実に。
(……あ、意地悪してやりてぇ、かも)
 ええ、だって、性少年ですから。
 そりゃもう色々なモンがむくむくとたち上がって来るワケですよ。悪戯心とか、加虐心だとか、あとは言わずもがな。あ、言っとくが別にオレはソーローではない。あくまでフツーだ、フツー。
「……なァ、ちゃーん?」
「ひ、……な、なに、その気持ち悪い顔は!」
「気持ち悪いって何だよ、傷つくだろ。ひでーの」
「ひどくないッ!なんか確実に良からぬことを考えてる顔してるもん!やめてよ、勘弁してよう……」
 あー、駄目だ、そう言われれば言われるほどその気になるって分かってねーわ、この子。
「ふーん、じゃあ良いんだな?せーっかくオレが、どうにかしてやろうと思ったのによぉ、そう言われたらなァ?……やっぱ、止めとくかぁ、」
「え?え?」
「ま、幸い口ん中だし、そう長引かねーとは思うぜ」
「ちょ、ちょっと、怜恩くん、」
 ちょっと身を引いてみせれば、面白いほど簡単に釣れた。内心ほくそ笑むが、もちろんソレを表には出さない。「んだよ、別にオレの助けはいらないだろ?」
「……」
 あ、俯いた。
 オレは見えないのをいいことに、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。
 そして、その時が来るのは案外早いのだった。
「……怜恩くん」
「んだよ」
「……あの、えっと、その、すぐ火傷が治る方法を知ってるんだったら教えてほし、!?、」
 がそう言うが早いか、オレは一気に彼女を引き寄せ、そのまま唇を奪った。こんときの抵抗もやっぱり可愛いもんで、オレにとっちゃないも同然だった。
 お互いの唾液の混ざる音がくちゅり、と口内で響く。逃げようとする舌を絡めとれば、抱き寄せた身体がびくびくと震えた。息継ぎの合間で、ふ、と苦しそうに息を逃がしているのがエロくて、色んなもんが背筋をぞぞぞと駆け上がる。
「、く……んぅ、れお、ん、ん、ぁあ、」
 すでに涙目になった祷が、オレの胸をどんどんと叩く。はっはっと息が荒くなってくるのが自分でも分かった。
「ん、ぅ……ッ、ふ、は、…ぁん、い、いた、」
 ぼんやりと、そりゃ火傷した口内を舌ピでかき回されちゃ堪んねーよなァ、なんて思う。もちろん思っちゃいるが、でも、それでこの行為を止められるかっつーとそれはまた別の話なのだ。オレは気持ち良いし、は可愛いし。むしろどこに止める理由があるのかと問いただしてやりてーもんだ。
「う、うぅ、……い、いた、いよぅ……も、やめ、」
 ……でも流石にそろそろ止めてやった方が良い気がする。
 涙目というよりかは、ベソをかき始めたみたいだった。悪いな、と思うと同時に、女子高生がベロチューで泣くなよ、と思わなくもない。
 つ、と名残惜しそうに糸を引かせる。すっかり身体の力が抜けて、オレにくてりともたれかかるだけのの顔を改めて覗き込めば、
「う、うぅう、ぅえ、ぇ、ッ、く」
 ──マジ泣きだった。
 さぁ、と顔面から血の気が引くのをオレは感じた。今まで感じなかった罪悪感が一気にのしかかる。
「……え、ちょ、さん?え、マジすか?ちょ、もしかしなくとも泣いてる?大丈夫か?」
「ぅ、ぐす、……だ、だいじょぶ、なわけ……っうう、ある、もんか……ふえぇ……」
「わ、わりぃって!泣くとは思わなくてよぉ、」
「い、いたいって、いたいっていったのにぃ……やめて、って、いったのにやめて、くれな、いし……」
「ごめん!この通りだからさ!調子乗ってました!ごめんなさい!」
 じっとりと恨みがましい視線が注がれる。何度も鼻をすする音が聞こえる。涙は止まったようだが、未だに目元は赤く、涙の流れた跡がきらきらと反射して見えた。
 やがて、は小さくため息をついた。
「もう、怜恩くんきらい」
「なッ……」
「意地悪だし、私の話全然聞いてくれないし、」
「ほ、本当に悪いって思ってるって!ごめん!ごめんなさい!」
「……次から気をつける?」
「気をつけます、はい、」
 そこでもう一度ため息。そして小さな身体で仁王立ちして睨みつけてきた。
 一瞬微笑ましく思えて笑いそうになったが、そんなことをしたらどうなるか分かったもんじゃねー。オレも表情を引き締める。

「一週間お触り禁止。守れなかったら、もう知らない!」

 ──そして、顎が外れるかと思った。
「……え?」間の抜けた声が漏れ出た。そんなオレを見てもの表情は険しいままだ。
「嘘じゃないから。本当に、守れなかったら別れるからね!」
 そう吐き捨てて、は踵を返す。え、ちょ、と伸ばした手は綺麗に空振り、目の前であっけなくドアは閉まった。
 慌ててオレも宿舎の廊下に出るものの、丁度彼女の部屋のドアが閉まるところを目撃しただけだった。え、マジすか。さん、マジで言ってんのか。
 オレは久々に自分の行動に後悔をすることとなった。





自業自得と言う言葉が御座いまして






「うう、腰、ぬけた、っつう、に……」
 そんなわけだから、自室に戻ると同時にへたり込む彼女がいたことをオレは知らない。