「ねぇクロロ、しゃれこうべって喋るかしら」
 唐突にそんなことをが言ったものだから、クロロは少しだけ眉を顰めた。何を言っているんだろうか、この女は。それでも古書からは眼を離さない。それを見て、もクロロと全く同じ調子で眉を少しだけ顰めたのだが、クロロにそれを知る由もない。
「一般的には在り得ない話だな。でもまぁ、念でも使えば出来るんじゃないか」
「…詰まらない男ね。盗賊のくせにロマンもないの?」
「そもそもしゃれこうべが喋ることにロマンを抱き、見出すことが可笑しいだろう。蜘蛛は骨になんて興味はないんだ」
 そう、じゃあやっぱり綺麗な宝石とか高名な絵画とか稀少な古書とかの方がいいのかしら?そう茶化すようにが聞くとクロロをこくりと僅かに首を縦に振っただけだった。…やっぱり、詰まらない。
「あら、仮にも人間様々のお骨よ?しかも一番…かは怪しいけれど、それでも重要な骨なのに」
 これだから、クロロなんて嫌いなのよ。とは大げさに肩の横で両手を広げて見せた。そしてこれ見よがしに憂いを帯びた溜め息も吐く。それはとても艶っぽく、蟲惑的だったが、それでもクロロは見向きもしなかった。はぁ、と小さく息を吐いて一言。
「人間にそこまでの価値があるもんか」
「それには同感ね」
「さっきと矛盾している」
「あら、男って何でもほいほい言うことを聞いてくれる子が好きなんでしょう?適当に合わせておけば、相手の機嫌も良くなるし、私の懐も潤うからいいじゃない。これって一石二鳥よ」
「そんなこと言っていいのか、。もしこれで、俺が憤慨でもして帰ったらどうするんだ?」
「そんなことで怒るほど小さい器ならそれまでだわ、クロロ。御猪口になんて興味ないもの。また別の男から搾り取るだけよ」
「寄生するように?」
 そう、寄生するように。そう繰り返すように言ったかと思うと、は突然くすくすと水が器から耐え切れずに溢れ出したかのように笑い出す。クロロには何が彼女のツボに入ったかは分からなかったが、“大したことではない”と結論付けて、また文字の羅列に意識を向けた。其れっきり、窓枠でぼうとしていたもクロロに話しかけようとしなかったので、この話は唐突に終わった。


(──クロロがしゃれこうべだけになったら私だけを見てくれるかしら)(ああ、でも駄目。彼の頭には知識とどろどろしたもの、そして僅かばかりの綺麗なものしか詰まってないわ。入る隙間もありゃしない)(だから結局は今のままね)
 そう思い、少しがっかりしたは熱く重い溜め息を吐いた。心中を察せ、クロロ。そんな理不尽な思いを乗せて。





しゃべれやしゃれこうべ