「てめーまだソレやってんのか」
 目の前に広がる白いキャンパスにどんな色を足していこうかと思案に耽っていると、何時の間にかぽひゅんだなんて可愛らしい擬音と共にコエムシが現れた。
「いい加減飽きねーのかよ?何時まで何も描かない塗らないキャンパスなんぞを見つめてんのやら」
 それは私の勝手でしょうコエムシは取り合えず帰ってよ気が散るんだもの、と少しむっとしつつそう言うとなぜかコエムシはにまぁと笑って(表情は変わってないのだけど、雰囲気が)、なんだなんだ?オレ様に指図すんのかよ糞ザルの分際でよぉなんて揶揄された。……む、むかつく……。
「……放っておいてよ」
「それしか言えねーのかバーカ」
「うるさい」
「そりゃこっちの台詞だな。てめーの方がよっぽどうっせーよ」
「なんで。そっちが最初に吹っかけてきたんじゃないか」
「あぁん?それとこれは別物だろ?吹っかけたのはオレ様でも挑発に乗って喚いてんのはてめーだっつうの」
「否定はしない、けど……」
「はん、否定出来ねーの間違いだろ?」
 ……事実、ではある。あくまでちょっとだけ、だけれど。だって話したくないのなら最初から無視してしまえば良かったのだから。でも、ちみっこい生命体の人の神経をを逆撫ですることにかけての天才的なこの態度!その気はなくともつい相手してしまうのも分かってくれまいか。
「それともアレか?下手だから描きたくとも描けねーのか?」
 ひくり、
 その一言に自分の米神がひくついたのがよく分かった。下手?ああそうだね自分でも上手いとは思えないよ。でもコエムシ、あんたには関係ないことだ。
「コエムシ、しばらく黙ってくれる」
 そう一言呟いてから私は今まで握ってすらいなかった絵筆をやっとこさ手に取った。パレットに並べられたさまざまな色から一色だけ選び、水を含ませた筆に絡ませる。白い筆先が鮮やかなシアンに染まった。
 ふっと小さく息を吐き、私は真っ白なキャンパスにシアンを勢いよく走らせる。何を描くなんて決めていない。何が描きたいのかなんて分からない。それでも指先は手先は腕は勝手に動き出し、私を形作っていく。
 下手だとか上手いとかは──絵を見てから言ってみろ、コエムシめ。