「依頼完了です」
「ああ、お疲れ」
画面を見つめたまま振り返りもしない男の脇にUSBを置いた私は、どかりと家主顔負けの図々しさでソファに沈み込む。ふかふかなソレに自分の疲れがじんわりと染みてなくなればなあと思う。
しかしこの男、人を散々こき使っておいて顔も見ない、返事もおざなりとはどういうことだ。こちとらこの一週間の睡眠平均時間が一時間を切ったと言うのに。
「臨也さん」
「何」
「臨也さァん」
「眠いなら寝れば」
──違う、そうじゃない。
私は単に誉めて欲しいだけだ。こんなになるまで頑張ったんだぞとアピールをしたいのだ。それはつまり構ってもらいたいと言う欲求とイコールなのである。
「じゃあ寝ます」
「なんでそう言いながらこっちにくるかな」
「膝枕」
「座ってるのに?」
「勝手に凭れるので」
ずるずると重たい身体を引きずりながら私は臨也さんの太ももに顎を載せた。案外固くて気持ち良くない。多分臨也さんは逃げてばかりだから足の筋肉が発達したのだろうと思う。
「どーぞご勝手に」
「ん、」
まるで犬みたいだ。
そんな私よりも仕事を優先させた臨也さんは頭上でタイピング音を響かせ始めた。カタカタカタカタ。カチャン。カタカタカタカタ。
構って欲しい私としてはそれはもうつまらないことこの上なかった。顎の下の温もりがどことなく遠く感じる。もっと近くがいいなァ、
「、さっきから何がしたいの?」
がじりと。
臨也さんの太ももに噛み付いたまま私はちらと顔を上げる。何も言わずに頬を擦り寄せ、あぐあぐと甘噛みを繰り返す。段々湿ってきた布の感触が嫌で今度は少し上の方に口を寄せる。私は洋服をたくし上げながら臨也さんを北上し続けた。
太もも、足の付け根、腰骨、腹、肋骨付近、胸元、そして鎖骨。
あちらこちらにうっすらと残る噛み跡が不気味で臨也さんの色気を助長させる。我ながらなかなかの出来映えで、思わず笑みが浮かんだ。
ふと臨也さんの顔色を伺えば、小さく顔をしかめており私は嬉しくなる。もっと困らせてみたくて、ぞろりと鎖骨を舐めあげた後、臨也さんの下唇へと歯を突き立てた。僅かに怯んだ様子に私はさらに満足した。
「唇、柔らかいですねぇ。これで甘かったら食べてるところでしたよ」
その瞬間聞こえた舌打ちだって今の私には抑止の意味を成さないのである。
嗚呼、たまんない!
食べちゃうぞ