じわり、と裾を広げていくように染み出す。何が、なんて分からない。ただ、じわりと。じわじわ、と。

 可愛い子。
 そう言って俺の頭を撫でる素振りをする少女の──否、それは見た目だけだ、彼女は俺が今まで出会ったどの生き物たちよりも無限の可能性を生きて、過ごしてきたものである──浮かべている笑みは全くに年相応ではなく、外見と同じだけ生きた小娘には到底真似することすら出来ないであろうもの、だ。魔性と言うには無垢で、しかし無垢と言うには誘惑的に甘く深いぬかるみに呑まれそうなそれに俺はみせられている。
 そんな俺の心中をまるで見透かすように少女は笑みを浮かべ、(溺れて良いの)うっすらと薔薇色に色付いた唇で誘うように紡ぐように囁く。(──ねえ、アーサー)彼女の花弁が紡ぐ己の名がなんと甘美に聞こえることか!思わず快哉をあげたくなるのを堪えながら、少女に手を伸ばす所作はどうしてこうも情と言う欲望に満ちているのだろう!微かに触れた指先が感ずる人ならぬ冷たさすら狂おしく愛おしい。

「   、」

 ようやく俺が呼んだ少女の名に彼女は笑う。花のように鈴のように風のように猫のように水たまりに移る景色のように刻々と時を刻む時計のように海のように、笑む。ただそれが嬉しくて仕方がないのか悲しいのか悔しいのか悦ばしいのか苦しいのか楽しいのか愛おしいのか、俺には分からなかったけれども、それでも良い。それで、いいんだ。
 いまはただ、おれはおれにほほえみみかけるうつくしいいきものだけをみていたい。

化ける