私はため息を吐いた。額に当てた手が微かに震える。
「またか……」
 呆れた視線の先には嫌でも目に付くピンク頭の変態殺人鬼。頼むから誰かあいつをどっかにやってくれ。そんな祈りは絶対に叶わなくとも言いたくなるこの気持ち、言わずとも理解頂けるはずだ。そんな私の苛立ちを余所に目の前の変態はにやにやと生理的嫌悪が先に立つような笑みと共に手を挙げる。
「やあやあ、またもや会ったね。会っちゃいましたね?もしかしなくともこれって運命なんじゃないかなと思い始めたハスタ・エクステルミでゴザイマスどーぞお見知りおきを!なーんてっ」
「帰れ」
「いやん、会って10秒も経たないうちにそんなこと言われたのオレ初めて☆」
「帰れ」
「やだなぁ、人間コミュニケーションから始まるんだぜ?言葉のキャッチボールを楽しもうじゃないか!レッツエンジョイ!」
「……黙れ」
「はっは、さすがのオレもそこまで言われると傷ついちゃうんだポン」
 傷ついたんならそのへらへらした笑みを止めればいい。どうせ上辺だけの言葉なんだからと私はその言葉を無視して目の前のヤツを睨み付けてやる。しかしどうやらそれは逆効果のようでヤツの口の端はぐいぐい上がるだけだ。それでも睨むのを止めたら負けな気がするので(何にとは言わない)、私はただ無言でガンベルトに手を這わせ愛銃に触れる。
「嫌いなのよ」
「本当に?ねえ本当に?」
「嘘吐きだもの」
「まさかー、オレは嘘なんて星の数程度しか吐いたことないぜ?」
 十分じゃあないか。
 それだけ薄っぺらな言葉を吐いておいてまだ足りないと言うのか。

 私は釣り上げていた目がふと緩むのを感じた。頬を伝う熱が何なのかは知らない。ただ、もうどうしようもなく逃げられないことだけが分かった。
 ねえ、どうせ居やしない神さま、私の抱くこの感情をなんと呼べばいいの?



刃の矛先