「葉隠ってさぁ、馬鹿でしょ」
 放課後の教室で、じっと水晶玉を見つめながら何やら怪しげな言葉をぶつぶつと唱えている葉隠を見ていたら、自然と言葉が零れた。普段ならば、そんな事実を指摘すれば直ぐさま反応が返ってくるはずなのに、今はなんと無視だ。葉隠のくせになまいきである。イラッとしたので、目の前の箒頭を思いっきりわし掴んでやった。
「……ッ痛ッてぇ!?」
「人の話聞いてんのか馬鹿」
「ちょ、 っち、なにすんだべ! いきなり酷いべ!」
「酷くない」
「ひ、被害者はオレだぞ!? そーゆーのはオレが決めることじゃねーの!?」
「悪くない」
「いやいやいやいやいや、そうじゃねーべ、話はきっちり聞かないと駄目だべ!」
「言っとくけど、それ全部、お前に返ってきてるから。お前こそ話を聞け」
「なんと!? まさかそんなトラップが仕掛けられてたとは思わなかったべ!?」
「……うん、やっぱり馬鹿だな」
「失礼にもほどがあるべ!」
 打てば響くような反応に思わずニヤつく。そうだ、こうでなくては面白くない。全く、弄り甲斐のありすぎる男である。これで自分より3つも歳が上だと言うのだから、人生、長く生きてりゃいいってモンでもないことが分かる。
「うっさい、葉隠のくせに口答えするんじゃない」
「えぇー……」
「何、なにが不満なの」
「……まあ、別にいいけどよぉ」
「私がよくないっつーの。はっきり言え」
「い、いやー、言ったら確実に怒るべ。占うまでもないべ」
「い い か ら 言 え !」
「いや、あの………… っちはツンデレだべなーと……」
「は、」
 固まった。
 あいた口が塞がらないことが実際にあるのかと、妙なところで驚く。
 ……って!
「お、おまえ、な、なに、を、言って!」
「いや、だって、今のちょっかいってオレに相手して貰えなかったからだべ? 前にも似たことが何度もあったしよぉ、それに、」
「う、うるさいうるさいうるさいッ! 黙れ黙れ黙れぇ!」
 あまりのことに反射的に声を荒げる。全く何を勘違いしているのだこの男は! 一度死んだ方がいい。いや、死んでも治らないからバカなのか。バカなのか!
「な、何調子に乗ってるんだ! しかも言うに事欠いてツンデレ? ふざけるのも大概にしろ! この、スカポンタン!」
「や、やっぱり怒ったべ!!」
「怒るに決まってるだろーが!」
 べしり、と箒頭に向かって手を振り下ろす。が、そのもしゃもしゃに衝撃が全て吸収されてしまう。そんなことすら腹立たしくて、私の目尻がキリキリと上がっていく。
「馬鹿! 葉隠の馬鹿!」
「いた、いたたたた、 っち止めるべ! 痛いべ!」
「調子にのってんじゃない! な、なななに、が、ツンデレだ! 一度たりともデレた覚えはないッ!」
「あーもうわかったべ! っちはオレが嫌い! これでいいべ!? だからもう止めてくれえええ!」
「誰が嫌いって言った!? 私の気持ちを勝手に決めつけるな!」
「わ、悪かった…………えっ」
「あっ」
 手のひらで口を覆う。
 いま、わたしは、なんといった? 
 とんでもなく阿呆極まりないことを言ってなかったか。それこそ目の前の馬鹿と釣り合うほどに!
っち……それマジで言ってるべ?」
「う、ぐ……ぐぐ、ぐぐ……」
「……なあ、オレさ、」
 その答えを聞く前に私は葉隠の顔面を思いっきりはり倒す。ひぎいい!? なんて悲鳴が聞こえた気がするが、今の私にそれを気遣ってやるような余裕は皆無なのである。この状況でどうして冷静でいられようか。ただひたすらに、自分の愚かな発言を反芻し、葉隠の馬鹿っぷりを考慮し、いかにしてこの状況を打破するかを模索することで忙しいのだ。どうやって誤摩化そうか。得意の口八丁でどこまで丸め込めるだろうか。
 しかしそんな中、引っ叩く前に見た葉隠の案外真剣な表情を不意に思い出して、私は顔を顰めた。そんな、私は断じて認めないぞ!

「──全く、葉隠のくせに、馬鹿のくせになまいきだな!」
「り、理不尽極まりねえ!?」





馬鹿のくせになまいきだ。