テレビを見て、その瞬間に私は走り出した。周りの人たちも同じだった。 早く!早く!早く!急かすように心の中で叫んでもこれ以上は早く動けない自分の足に、もどかしさが浮かぶ。 ああ、早く、風よりも、瞬くよりも、体内を駆け巡る電気信号よりも、速く!思わず叫びそうになるのを堪えるたびにつう、と滴る汗がやけにぬるくて、妙な不快さだけが残ったのが余計苛立ちを掻き立てた。 ああ、もっと普段から走りこんでりゃ良かった!
「ギル、ギル、ギル、ギルベルト!」
 息が苦しい。ぜぇはあと吐き出すそれはただ喉をひり付かせるだけで、それと連動するように足がもつれ始める。 でも、あと少し。あとちょっとなんだ!




















 私がたどり着いた時、そりゃあもう人が凄かった。どこを見ても人人人人────なんてこった、あの馬鹿、どこに居るんだろう。
 私は荒い呼吸を押さえようと膝に手をつきながら、大きくゆっくり、息を吐いた。心臓がまだ、痛い。ぎしぎし、みしり。額を伝う汗を手のひらで拭い、私は当てもなくふらふらと歩き出す。 右を見ても左を見ても人が流れ込んでくる。逆らうのだって、一苦労だ、ったく。心の中で悪態をついた。

「……────ッ!」

 ぴたり。
 思わず私は足を止める。もしや、もしかして。

「────!」

 ねえ、これは、期待していいの?
 今にも周りの声にかき消されそうなそれに私は振り返る。そんなばかな、一体全体これはどこのドラマなんだ。ご都合主義にもほどがあるだろう。ねえ、でも、それでも振り向かずにはいられなかった。

「……ああ、」
 ────居た。
 私はへなへなと地面にへたり込みそうになるのを、近くにあった電柱を掴むことで阻止した。ああ、目の前に居るのは紛れもなく。あの赤い瞳は見間違えようもなく。 掠れた声で自分の唇から紡がれた名前はすぐに空中に溶けて消えたけど、でも私の脳みその中でガンガンと反響していた。
 なあ、久しぶりの再会にしちゃあ出来すぎたシチュエーションだと思わないかい、




















「やあギルベルト、イヴァンにも見捨てられて、それで何だ!全く自分に腹が立つよ、こんな壁さっさと壊してしまえば良かった!」
「……おうよ」
 顔をくしゃくしゃに歪めながら泣いているんだか笑っているんだかよく分からない顔で話す私を見てギルベルトは呆れたように小さく笑った。随分見ていない間にギルはやつれていた。 どこかの重病患者みたいにふらふらで顔色も良くないし、肌もやけに青白いかった。でも、でもただ赤紫に爛々と光る眼だけは、昔と一緒で私の心臓を射抜くようなそれで。 それを見た瞬間さっきまで籠っていた熱がしゅん、と引いたのが分かった。ああ、良かった。妙な安堵で全身が満たされる。 気が緩んだ私はそのまま身体を浸す衝動に身を任せ、もう無理だよと文句を言おうとする心臓を叱りつけてから────久しぶりの熱を感じるため、最後の距離を駆け出した。
























(ねえ、ねえ、おかえりなさい、!)(ずっと待ってたんだから!)