と、威勢良く返事をして教室を飛び出したのは良いのだけど、そしてそれから階段を勢い良く駆け上がって屋上前の鉄扉に着いたのは良いのだけど、…………けど。そのドアのノブすら握れずに私は現在、呆けたようにして突っ立っている。だって、ねえ、
「なんて、言えばいいんだろう、……とかさ、もう、」
さっきからずっと付き纏う情けなさに、今度こそ打ちのめされた私はため息と共に、ドアノブに伸ばしてそのままだった手を取り合えず引っ込めた。そしてそのままずるずると扉に背を預けるようにして座り込む。スカートで、スパッツも穿いてなくてその上体育座りだけど、まあ休み時間がすぎてチャイムもさっき鳴ったような、そんな時間にこんなところに来るような物好きは私とギルベルトくらいだから、いいや。
「ねえ、ギル休み時間終わっちゃったよ」
私は自分の身体を抱きしめた。
「次は私が大ッ嫌いな数学だよ」
そんな体勢で呟くのは、ただのひとりごと。
「どうしようねえ、今日もきっと何言ってるかも分からないよ。だからもう授業出なくていいやーなんて思ってるんだけど、」
だから、誰も聞いちゃあいないのだ。だって独り言って当たり前だけど、一人で言うものだから。
「あ、そう言えばギルは数学得意だよねうらやましいことに。くそう、ちょっと後で殴って良い?あと、……あと、」
「…………ごめん、ね」
「私もギルに負けず劣らずのバカだから、加減を知らないんだ。傷つけて、後で後悔しちゃうんだ」
「だから、ごめんなさい」
本当に、なんて歯がゆいんだろう。
そっと下げた頭はやっぱり扉越しじゃあ見えないんだろうけど、
でも、声くらいは、届くよね?聞こえるよね?
────なんて、やっぱりただの幻想かなあ、だって独り言だもん、
「バーカ、」
「!……ぎる、」
「なーんでそこまで考えるかねお前は。バカアホドジマヌケオタンコナス」
「お、おたんこなす……!?」
「バカ、反応すること違ェよ」
「…………怒ってる?」
「……元々怒ってはいねえよ。ちったぁ悲しかったけど、な」
「、ごめん」
「別に謝って欲しいわけじゃねーし、それに、がしおらしいってのはなーんか気持ち悪ィんだよなあ、」
「酷いなあ」
「事実だろ」
「それは褒め言葉ととっても?」
「いや、むしろ」
バン、と勢いよく、でも教室で聞いたそれより、ずっと柔らかな音で扉が開かれた。扉に体重を預けっぱなしだった私はそのまま後ろにひっくり返った。コンクリートに思いっきり打ち付けた頭が痛い。速攻で出来たたんこぶを手でさすりながら、うっすらと涙の滲む目で見上げた空には見慣れた人影と差し出された手が映った。
「ちょ、おま、なんてベタなことをやってんだ」
そんな笑いを含んだ呆れ声に私も小さく笑いながら手を取る。そのままぐい、と力強く引っ張り上げられ、
「……あ、そう、さきの続きだけどよ、むしろ、仲直りってことだな」
なんて、ベタなことを言ってくれる友人に私は照れ隠しで力の入らないビンタをかまして、思いっきり笑った。なんてことない、お互いただのバカなんだから。
ぶちかませ青春!