なんと言うか単なる気まぐれと言えば気まぐれで、偶然と言えば偶然なこの出会いは言ってみるなら決められていただなんてそんなまさか、ねえ。流石に気のせいだろうとは思うけど。

「え、ちょっ、……え嘘マジで……!?」
 しかし上記で気のせいだ気にしてないと言ってはいても、でもだからって此処まで分かりやすく、そして対応に困る反応をされてしまうのは少し、いかがなものかと思う。さらに言えば、私だって内心すごくびっくりしつつも冷静を装ってるんだからお前も見習えばいいのにとすら思う。
「やあ」
「お、おう……」
「まさか夜中のコンビニで同じ時間に同じタイミングで同じ雑誌コーナーに並ぶとは思わなかったね。……あ、君もしかしなくともその雑誌はグラビア目当て?駄目だよ、それは袋とじのくせ露出が少ないし女の子もあまり可愛くないから。ただ胸がでっかいだけだ」
「ッ、むっ?!……ちょ、おまっ、そんなこと言うなよ!仮にも女だろーが!って言うか見たのかおまえ!?」
「仮にも何も正真正銘の女だけど、ねえ。まァいいや、そんなに女がグラビア見ちゃ駄目?意外に気になるもんだけどなあ」
「そ、そうじゃなくてな……」
「ああそれとも、“いやぁん、ギルベルトのえっちへんたぁい!”ってウブな反応した方が良かったかな?」
 そう言いながら胸元に手を当てながら身をくねらせるとギルベルトは面白いまでに一瞬で顔を朱に染めた。まるで単純なやつである。だからフランシスやアントーニョにからかわれるって絶対分かってないに違いない。まァ、そこが良いちゃあ、良いんだけど。
「ばっ、ばかじゃねーの!」
「そうだねえ、取り合えず天才には分類されはしないけども」
「そうじゃねーよ!そうじゃなくてなあ!」
「しっかしそれにしても奇遇だねえ、」
 段々と大きくなるギルベルトの声にかぶせるようにして私は、笑った。
 有無なんて言わせてやるものか。笑顔にまさるポーカーフェイスはなし。そして笑顔ほど相手に対し効果的に力を及ぼす表情はないのである。天真爛漫な笑顔は冷たく凍った心をも溶かすのだ。例えば、赤子は始めっから必要なことが分かっているからこそ、よく笑うように。

「折りしも今日は星が綺麗だ、良かったらアイスでも片手に散歩でもいかが?」

 なんて、単にそれが言いたかっただけだなんて、ねえ、誰も言ってはやらないけど、さ。内心くすりと笑いながらひんやりとしたアイスボックスから手に取ったアイスは綺麗なみずいろのソーダバーだった。


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「んー、やっぱりこの時期は夜でも暑いねえ」
「……」
「ん、何か反応しようよ君、返事がないって一番つらいんだから」
「……っ、お、おう、…で、なんだったか、えっと、」
「暑いね、って話だよ。大丈夫かい、熱気の所為か頭回ってないんでしょう」
「あ、ああ、そう、そうかもしんねェ、」
「…………ふうん?」
「ん、んだよ、なんでそんな目で見るんだよ」
「嗚呼、そう言えば、」
 問いには答えず私は食べ終わったアイスの棒を咥えたまま、たん、とその言葉に合わせてギルベルトより一歩前に踊りでる。そのままくるりと両手を広げながら体を半回転させ、自分にとっての精一杯の茶目っ気を含ませた声色で歌うように、奏でるように問い返した。

「今日は星が一番輝くんだよ、なんでだか知ってるかい、君、」

 ────ホラ見て、そう言って指差した先には星が瞬く。一瞬の命を赤々と、青々と燃やして地球を見つめる。流れた星はどこにたどり着くのだろう、夢か、願いかその先か。まァ、いずれにしても我々には与り知らぬことなんだろう。でも別に知らなくたっていいのだ、だってあるじゃあないか。知らなくたってそこにあってくれるのだったら、私はそれでいい。白鳥の橋渡しなんて私には不要なのだ。一年もあるのだったら私は舟でもなんでもつくって渡ってやろうじゃないか。15光年なんてそんな距離大したことはない。ねえそうでしょう?
 まるで置いてかれでもしたかのように、ただ呆然と呆けるだけのギルベルトを見て私は唐突に顔を背けて走り出した。あの星まで、あの星まで駆け抜けられたらきっと心地良いに違いない!

( ねえギルベルトつまりは悪いのは全部この熱帯夜なんだ。だから後ろから慌てたようにかかったおい待てバカと言う声と共に引っ張られ振り返った先にある君の顔に思いっきり噛み付いてやったって構わないはずなんだけど。 でも、ちょっとくらいはねえ、許してなんて自惚れかなあ、やっぱり。 )