はぁ、と息を吐くと息が白くなった。冷たい手を擦り、ポケットに突っ込めば少しマシになったような気がする。冬は寒いから嫌いだ。いっそ人間も冬眠出来ればいいのに。そんな阿呆なことを考えながら私はぶらぶらと歩く。ため息にも似た息を手に当て摩るように揉んでもまだ温まったと言うにはほど遠い。私はうぅ、と小さく唸り風に首を竦めた。そしてああ嫌だ嫌だなんてはぁと重いため息を吐いたところで後ろから肩を強めに叩かれ聞きなれた声が私を呼び止める。
「!じゃあないか!」
「……あぁ、榎さん」
「それにしてもは寒そうだなぁ。僕なんてこぉんなに重装備だぞ」
ほら!と言いながら腕を振り上げる榎さんは確かにかなり着込んでいた。手袋マフラーはもちろん耳当てまで。なんだかもこもこしてて可愛い。ってこんなこと言ったら怒られるだろうけれども。
「ええ、私も今は後悔してますよ。流石に寒いもの。でもマフラーも手袋嫌い……と言うか苦手なのです」
「ほう、それはまた何でだい、温かくていいじゃあないか」
「首が締まる感じとか手袋した手で髪の毛触ると静電気が酷いこととか、ですかねえ」
「ふぅん?」
そう言って心底不思議そうに、理解できないものを見た子どものような瞳で首を傾げる榎さん。私は思わずあははと笑う。
「ああでも今は榎さんが羨ましいです。実のところ手が冷えて冷えてしょうがないんですよ、」
そう言いながらポケットから何時まで経っても温かくならない手を出し、またはあ、と息を当てる。それ自体は温かいのに私の手はそれを受け付けてくれないもんだから、熱は手の間からすり抜けてしまう。しかも湿った息が外気に凍らされた所為で余計冷たくなったような気すらする。ああ嫌だ嫌だ。
「おーの手が真っ白になってるなぁ!雪みたいだ!」
「でしょう?」
そう言ってにへらっと笑えば榎さんは少し考え込むような仕草をした。どうしたのだろうと疑問符が浮かぶ私を余所に、彼はそのままうーん、と小さく唸る。そしてなにか良いことを思いついたかのように、ぱぁ、と顔を綻ばせたかと思うと、
「ならこうすればいいのだよ。おぉ、それにしてもなんだこの手は。僕の手まで冷え冷えになってしまう!」
「!え、榎さん?」
ぎゅう。いつの間にやら手袋を外した手で私の手を掴んだかと思うとそのまま、彼は自身の頬へそっと私の手を宛がった。そしてやっぱり冷たかったようで、その整った顔を顰めたかと思うと、やっぱりこっちの方がいいな!なんて言いながら私の手ごと自分のコートのポケットに突っ込む。
「わ、え、ちょ、ちょっと榎さん!」
「うるさいなぁ。君は大人しく付いて来ればいいのだよ。僕の事務所に着いたら阿呆にお茶でも淹れさせてやるから」
そう言ってずんずんとコンパスの長い足で歩きだす榎さんに追いすがろうと自然と私の足も速くなる。やっぱり榎さんは榎さんだ。強引で自分のことしか考えてなくてでもちゃんと筋が通った可愛い人。私は少しずつ温まりだした自分の手に苦笑を漏らしながら、繋いだ手から伝わる熱を離すまいと強く握りなおした。
この手がこの熱がこの人が、