ばしっ、と小気味よい音が辺りに響いた。一瞬何が起こったのだろうと目をしばたたかさせて、そしてようやく、熱を持ちはじめた頬から自分の頬が叩かれたのだと気が付いた。あ、いたい。
「!!!」
「静雄く……って、あーぁ、そんな顔をしないの。折角の男前が台なしだぞーほれーうりうりー」
「……」
「静雄くん」
「……」
「……んーあんまり無視されると傷付いちゃうなあ。何だか痛々しい人みたいになってるじゃないか」
と言うよりまるで虐めてるみたい、と言う言葉はそっと飲み込む。だってこの子、すっかりしょげてしまってるんだもの。ぎゅうと寄せられた眉根、ちょっぴり潤んだ瞳、ヘの字の口元、真っ赤になったほっぺた。全く、何と可愛いことか!お陰で私はうっかりわき起こってしまったサディズムに必死で蓋をしなくてはならなくなった。
「静雄くーん、私は全然怒ってないぞー、だからちゃんと目ェ見てお話しよう」
「……」
「むしろ今のは私が悪かったからねえ。君がそんなしょげることはないんだぞ?」
そう、今のは私が悪いのである。
流石に調子に乗りすぎたと言うか。ねえ。
「ごめんねー、いくら可愛いお顔の静雄くんだからって、こんなお洋服は嫌だったね」
こんなお洋服とは──ふんわりとした黒スカートはくるぶしまであるロング丈、白いエプロンはシンプルに、しかしうっすらと施してある刺繍はどこまでも緻密で美しいものを、またそれらに合わせて襟や裾や袖にあしらわれたフリルは控えめに。胸元のリボンもシンプルで細いもの──つまり、いわゆるメイド服と言うヤツである。ああそうさ、私も流石に猫耳メイドはやりすぎだと思ってるとも、反省している。
でもね、きっと可愛いだろうと思ったのだよ。わざわざサイズまで合わせて作ってもらったのだ。そしてその出来と言ったら素晴らしいの一言に尽きる一品なのである。
「……」
「なにかな?」
「い、いたくなかったか……?お、おれ、力がつよいから……音、すごかったし、それに、のほっぺた、真っ赤だ……」
「……な、」
嗚呼!この子はなんて眩しいんだろう!
こんなことをしたと言うのに、心配だと?この、私を心配するだと?
「し、しずおくん……!」
「?」
き み っ て 子 は ま さ か 天 使 な の か !
もう、そうとしか私には考えられない。全く、幽くんは良い教育をしてきたようである。友人として、とても鼻が高いよ。
「──静雄くん」
「な、なんだ?」
「静雄くんはまるで天使みたいだねもう私気付いたらすっかり静雄くんにメロメロになってるけど別にちっさいオトコノコが好きなわけではないからねそこのところは勘違いしないでほしいさあそんなわけで静雄くんはぜひとも私にぎゅっぎゅと抱きついてきて構わないんだよ!さあ!」
「……っバ、バカァァアアァ!!!」
そして今度こそ意識まで刈り取るほどのビンタが飛んだのは致し方がないことであ
むりにいうことを
きかせようとしてはいけません