「……で、今度はどうかな?大分落ち着いたかい?」
「はい、お陰様で……」
さっきの醜態を思い出し、思わず俯く。恥ずかしい。
今は関さん(と言うか多分軍の、)車に乗せて頂いている。エンジンの振動が微かに伝わるだけで車内はひどく静かだ。でもその沈黙はけして冷たいものではなく、ふわりと包み込まれるようなものですらあった。やっぱり、関さんのお陰なのだろう。
「それは良かった。……あ、何も考えずに飛び出してしまったわけだけど、ちゃんはどこに行きたいかな?」
「……特に、ないです……どこでも、関さんの好きなところでいいです……」
「うーん、僕の好きなところと言われても……あ、そうだ、じゃあとっておきのところに行こうか。最近見つけたところなんだ。景色がね、綺麗なんだよ」
「……はい」
私が頷くと関さんはにこにこ笑いながら車を走らせる。夜中だからかあまり他の車が通らないのをいいことにちょっと飛ばすよ、なんて言ってびゅんびゅんスピードを上げる。仮にも軍の人なのだから制限速度くらいは守った方がいいと思ったけれど、そんなことより私は早く“とっておきのところ”の方が気になるので何も言わない。窓を開けると夜風が顔に当たって気持ち良かった。
「あんまり開けると風邪を引いてしまうよ」
「大丈夫です。それより開けた方が気持ち良いから、」
「了解。でもほどほどにね」
はい、と小さく返事を返すと関さんは満足気に頷いた。
「もうすぐだからね、着いたらちゃんと閉めるんだよ」
それは当たり前だと思うけど、私は何も言わないでおく。