ふと夜中に目が覚めた。
別にいつも通りの生活を送っていつも通りに寝たはずなのに。でも心当たりがないわけでもない。
──ジアース。多分これだ。
あの自然学校でなんのためらいもなく軽い気持ちで結んだ契約は死への片道切符だった。切符の返金もまた死へ向かいひた走る汽車から降りることも叶わず私はここに居る。──ここに、居る?本当に居るの、ねえ、
その途端ぐらりと視界がぶれた。見えない力に押し戻される様にしてまたベッドに倒れ込む。ぞわぞわとざわざわと襲う不安に飲み込まれそうだった。ぎゅうと枕を、ちいさい頃に買ってもらった(今ではすっかり色褪せてしまった)抱き枕代わりのアザラシのぬいぐるみを、毛布を、手当たり次第に掻き抱く。それでも埋まらない、埋められない穴。怖い。何もないのに泣きそうになる。
これだけものを抱いても、まだ足りなくてどうにかして穴を埋めようと次々と手当たり次第に手を伸ばす。いっそ感情がなければ良かった。恐れなんて知りたくなかった。そんな思いをぶちまけたいのを押し殺しながら、まだ穴を埋めるものを求めて蠢く私の手。見苦しく這うその手がひやりと冷たい、まるで私の手に誂えたかのようにぴたりとはまるものを捜し当てる。何だろう。これだったら、これなら私の穴を埋めてくれるだろうか。そう思い枕に埋めたままだった顔を上げる。
「……あ、」
携帯、だった。そうだ、確かにこの感触は数年来の付き合いの白くて少しだけ丸っこい頼れるやつだ。期待した何かとは違って一瞬落胆しかけたが……そこで私は彼の役割を思い出す。震える指でアドレス帳を開くと見知った名前ばかりが並ぶ。当たり前のことなのに、それに酷く安心した。
今の時間は誰が起きているだろうか。それを基準にして電話をかける相手を探す。出来るなら話を聞いてくれる人がいい。もっとわがままを言うなら、会いたい。誰か、誰か、……