「!」
「ぐ、ぅ……!?」
急に訪れた腰回りへの圧迫感に私は無様な声を上げた。
ぎゅうぎゅうと未だに引っ付いたまま離れないこの体温は(誠に不本意ながら)慣れたもので。この男は毎日飽きもせずに人のことを背後から抱きしめる。もちろん、人目があろうが何だろうが全く気にしない。自分がしたい時に自分がしたいだけするその様子は、まさしく自由の国であった。
「な、なに?」
「特に用はないのだけどね。強いて言うならともっとくっ付きたいんだ」
「……暑苦しいからそれは断る」
「その要求は却下するぞ!」
何故なら俺はヒーローだからね、ヒーローはヒロインとくっ付くんだぞ!と全くもって理解しがたい英雄理論と共にアルフレッドはさらにその腕に力を込めた。……正直痛い。
「アル、痛いよ」
「は相変わらずだね」
わずかな苦笑を滲ませながらも、きちんと力を緩めてくれるところは優しいとは思う。思うけれど、しかし暑いことには変わらないのである。冬ならまだしも今は夏だ。ただでさえ茹だりそうだと言うのに、そこに子供体温の男の抱擁が加われば――最悪なことこの上ない。
「暑い」
「俺は暑くないよ。が冷たいし」
「アルの所為で私が余計に暑さを感じることになっていると気付け」
「いやーは丁度良い抱き心地だね!」
「こッんの、KYめッ!本田さんは空気は読むものって言ってたのに!」
「まあまあそんなに声を荒げないでくれよ」
「誰の所為だと!」
思わず振り上げた私の腕は見た目よりずっと力のある腕で押さえ込まれ、さらには腕ごと抱き抱えられることとなった。カッと熱くなった頬は、きっと冷房がこの部屋に効いていない所為に違いない。
「はそんなに俺に抱きつかれるのが嫌なのかい?」
「暑いし熱くなるから嫌なの。それに、」
「それに?」
「…………いや、なんでもない」
「なんだよ、教えてくれたって良いだろう?」
それとも本当に俺が嫌なの?
そうぽつりと背後で囁かれた瞬間、私は血が頭へ上っていく音を聞いた。思わずがばと身体を無理矢理反転させ、アルフレッドと向き合う形になる。そのまま惚けた顔をしたアルフレッドのだぼだぼのTシャツの襟元を掴み、自分の方へ引き寄せ噛み付くように、苛立ちのままに叫んだ。だって、こいつは、こいつってやつは!
「ッ、後ろからじゃ顔が見えないから嫌なんだって察せよ、この空気読めない大国がッ!」
…………あ、しまった。
言ってから私は思いっきり後悔した。今顔が熱いのは冷房が効いていない所為でも何でもなく、羞恥からくるものでしかなかった。
どうしよう、まともにアルフレッドの顔が見れない。恥ずかしい。
「……hey,、それって本当?」
「う、うっさい……」
「本当なんだね?」
「…………」
「良かった!俺だけじゃなかったんだ!」
「は?」
そう言うが早いか、ぐるりと視界が一転する。え、え、と戸惑う間にも気付けばさっきまで私の目の前で惚けていたはずの顔は底抜けに(それこそ嫌みのように)、笑顔だった。
「これからは正面からどうどうと抱きつくことにするよ!」
――全く、冗談じゃない。